|

甲田洋二(こうだ・ようじ)
経歴
1939年長野県生まれ 武蔵野美術学校卒業 専門分野:絵画制作。 自宅至近距離に建設中の高速道路(圏央道)が私的にもたらす諸問題を造形化し、普遍化への試みを続けている 2000-2001年、二度目の大学派遣によりドイツを主にエジプト、モロッコ、ロシアなどで研修
展覧会: 2000年画廊岳、COLOMBE、2002年青梅市立美術館、2003年画廊岳、2004年瑞穂町立耕心館での特別展、2004-2007年銀座・シロタ画廊などで個展を開催
|
80年の伝統に育まれた「美の力」が、今、動き始めています。
武蔵野美術大学学長 甲田洋二
2009年、武蔵野美術大学は創立80周年を迎えました。すでに、記念事業の大きな柱である建築事業において、13号館や2号館が竣工し、美術資料図書館新棟も2010年春のオープンをめざして着工するなど、本学の研究、教育環境はさらに大きな飛躍をとげようとしています。また、美術資料図書館での記念展や、新たにオープンしたgallery αMでの企画展など、学内外での展覧会も予定され、秋には世界の美術大学の学長が一堂に会する記念イベント等も行われます。
あらためて振り返ると、1929年の創設当初から経営陣は美術に対する熱い期待、信頼感を抱き、経済的に苦しくても当代一流の美術家を教員として招聘し、官に頼らない美術教育の場を若者たちにもたらしてきました。経営陣、教員、そして学生たちによって育まれてきた武蔵美の伝統、それは建学の精神として掲げられた「真に人間的自由に達する美術教育」、あるいは「在野精神」など、さまざまに語られますが、より分かりやすくいえば、「どう描くのか、ではなく、なぜ描くのか」という問いを常に発しつづけること、即ち、自分自身の責任において、つくること、描くことの意味を見出していくことにほかなりません。
人類は今、地球規模の環境問題の深刻化と世界的な経済危機に直面しています。物質的に豊かな社会の構築という価値観は、目に見える成果を期待する実学や効率性を重視する考えに支えられ、確かに大きな成果をもたらしました。しかし、今日の危機が回避されるとしたら、多くの人が、人間の営みの中に、実利や効率だけではない、より根源的なものがあることに目覚めたときではないでしょうか。そしてそれは、社会の価値観に追従するのではなく、私たち一人ひとりが自己と深く対話することによって、初めて可能になるのではないか。私はそのように考えます。
もとより新しいアート、新しいデザインが生まれるとすれば、それは既存の価値を疑うことから始まります。そして、自分で見て、感じて、つくって、それをまた壊し、という筋肉と頭脳の協働によって自己と対面し、自分自身で答えを探しつづけなければなりません。こうした絶え間ない作業の地平に、自然、あるいは他者に対する根源的な理解と尊敬の念が育まれ、それが新しい造形へとつながっていくと思うのです。そのようなプロセスで育まれる力、それを私は「美の力」と呼び、そこに未来への大きな可能性を見出したいと思います。
造形作家、デザイナー、多種多様なクリエーターはもちろん、造形活動以外の分野でも、本学卒業生の活躍は目覚ましいものがあります。それは、造形を学んだ人間に備わった「美の力」に対する、社会の期待の現れではないでしょうか。造形芸術を通して、そのような力量を備えたさらに多くの人材を育て、社会に送り出すこと。それは、武蔵野美術大学の最も大きな使命であり、本学の伝統を、未来へつなげていくことだと考えます。
|